この世界に来る前、私には好きな人がいた。
相手も私を好きでいてくれた。
いつも明るくて、どちらかと言えば”かわいい系”だった。
人を疑うことを知らなくて、人の良いところばかり見ていた。
いつか怪しい壺でも買わされるんじゃないかと思っていた。
優しくて、友達が多くて、子供やお年寄りからも好かれていた。
いつだったか、クラスの女子たちとのいざこざに巻き込まれて孤立したことがあった。
それでも、私の味方でいてくれた。
「僕の知ってるなまえちゃんは、嘘吐かないでしょ?」
にっこり笑って、当然のように言った。
その時、私は子供のように泣いた。
それから好きになるのに時間はかからなかった。
必然のように好きになった。
「僕もなまえちゃんのこと好きだよ」
いつものように笑っていたけど、頬が赤くなっているのを見て、キュンとした。
たぶん、私の初恋だった。
手を繋ぐのも、ハグも、キスも、その先も、全部初めてだった。
大好きだった。
いつも、私を照らす太陽のようだった。
善逸くんは、どこか少し彼に似ていた。
人を、私を信じてくれるところ。
話していると楽しくて、かわいいなぁと思わず頬を緩ませてくれるところ。
雰囲気が似ていた。
だから、善逸くんと話すと、時々彼を思い出してしまっていた。
たぶんそれが、音となって届いてしまっていたのだろう。
善逸くんは、私の話をずっと黙って聞いてくれていた。
「じゃあ早く会いたいですよね」
そう言ってくれたけど、私は首を横に振るしかなかった。
だって、彼はもう死んでしまったのだから。
善逸くんが息を飲むのが分かった。
私がこの世界に来る2ヶ月ほど前だった。
彼は突然、事故でこの世を去ってしまった。
もう会えないのだ。二度と。例え元の世界に戻ったとしても、彼はもういないのだ。
善逸くんは泣いていた。私のことを思って大粒の涙を流して泣いていた。
ごめんね、君を泣かせるつもりなんかなかったのに。
私の涙はとっくに枯れてしまっている。
ごめんね。
それしか言えず、私は彼をそっと抱きしめた。